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社会福祉法人 京都ライフサポート協会
理事長 樋口幸雄

2013年1月
施設等における障害者虐待防止の取り組み

 樋口氏は、冒頭、「施設内虐待とは何か」ということについて、新聞で報じられるような、叩く、蹴るなどの身体的な虐待や性的な虐待だけではなく、精神的な虐待やネグレクト、施設での不適切な支援などもあり、このような虐待は、新聞などで取り上げられにくく、長期に渡って当事者を苦しめている、と訴えました。

 施設で支援にあたる職員は、常に自分が「支援」として行っていることが、当事者にとって「虐待」となっていないか、謙虚に反省する姿勢が求められており、施設自体も、行われている「当たり前の支援」が外部から見たら「虐待」ではないか、と確認するためにも、積極的に外部の目を取り入れることが虐待をなくすためには不可欠である。このような内部と外部から常に支援方法を検討していく姿勢が「虐待を無くすためのリスクマネジメント」である、と呼びかけました。

 また、障害者虐待防止法は、虐待をする人を見つけ出し、罰することを目指している法律ではなく、支援者の障害者虐待のリスクを低くすることを目指しており、障害者の生活の楽しみや人生の幸せをともに探していくことに生きがいを感じられる人たちを増やしていくことが究極の目的である、と述べました。

 2011年7月に北海道知的障がい者福祉協会が実施した「全道知的障がい児者入所施設利用者権利意識調査」の結果に触れ、「あなたはここ1年の間に職員からたたかれたことがありますか」「あなたは施設を利用してから、これまで職員からたたかれたことがありますか」という2つの質問に「はい」と答えた利用者は18%にものぼると説明しました。また、職員に対して「あなたはここ1年の間に利用者をたたいたことがありますか」「あなたは施設・事業所に勤務してから、これまで利用者をたたいたことがありますか」という2つの質問をしたところ、「はい」と答えた職員は42%にものぼっており、とても驚くべき数値だ、と語りました。

 また、樋口氏が関わった「京都市内入所施設における行動制限問題」の事例について触れ、「当該施設が行動制限を行った背景には、利用者の状況と施設のハード面で問題がありました。当該施設では、身体拘束その他行動制限の廃止に向け、平成17年6月に取り扱いマニュアルを作成し、行動制限等を行わないことを基本とし、実施する場合の手続き等を規定していたにも関わらず、身体拘束を実施した後に行動制限の必要性の検討や見直しがされていなかったり、行動制限の態様や利用者の状況、理由などについて記録の漏れなど、いくつかの問題点がありました。そのため、京都市では、平成19年4月から4回にわたり、処遇検証委員会を開催し、当該施設が実施していた居室施錠は厚生労働省が示す3原則に合致していないと指摘した上で、行動制限の基準を明確にし、施設長のリーダーシップや職員の資質向上を図るべき、と施設に対し助言が行いました。その後、当該施設では、食事時間帯については、職員の勤務時間帯の見直しや関係スタッフの連携により居室施錠を廃止し、就寝時間帯については、居室の出入り口や居室内への人感センサーの設置により、居室施錠を廃止しました。また、行動制限等の取り扱いのガイドラインについても、行動制限が必要な場合には、支援のあり方を工夫するなど、原因の究明にまず取り組むことを基本とし、実施する際の基準を利用者ごとに明確化し、実施にあたっては役職者による事前確認を行うなど、従来のマニュアルの刷新を行いました。」と施設における行動制限の廃止に向けた事例を踏まえた取組みについて、説明がありました。

 障害者虐待の防止に向けた施設での改善事項として、居室施錠等の行動制限の廃止や行動制限に関する記録の整備、個別支援計画や生活環境の改善、PDSサイクルの導入、行動制限の廃止に向けたガイドラインの刷新などに取り組む必要がある、と訴えました。

 また、京都府自立支援協議会身体拘束防止推進部会が作成した「障害のある人の尊厳を重んじた支援を目指して〜身体拘束・行動制限の廃止への手引き〜」に記載されている「施設が取り組む5つの方針」と「現場が取り組む3つの原則」について説明があり、身体拘束を誘発する原因を探り、日常生活における基本的な支援等を徹底し、身体拘束廃止をきっかけに「より良い支援」の実現を図ることが障害者虐待の防止につながる、と呼びかけました。

 「障害者虐待・人権侵害を起こさない施設環境」については、樋口氏が理事長を勤める「横手通り43番地 庵」の施設の概要と取組みについても説明がありました。樋口氏の施設では、最重度者や強度行動障害者を受け入れており、全室個室の5〜6人単位のユニット形式で建物を設け、デイスタッフやユニットスタッフを固定し、ローテーションのない勤務形態を実施し、普段の暮らしの中、プログラムで動くのではなく、五感に届く営みのサインに促され、利用者が能動的に暮らせるよう、心地よいと感じられる空間を設けている、ということでした。

 施設運営の視点から、障害者虐待が起こる原因と背景について、1つ目として支援が支援者の自己完結で行われることは、支援が密室で行われるということであり、施設福祉の最大のリスクであること、2つ目に、施設運営責任者の人権意識や倫理観の欠如、危機管理意識の甘さなどの管理者・施設長の資質・適格性が欠如していること、3つ目に、仕事の意味や支援者としての基本姿勢などが未熟なため、職員の意識やモチベーションが低いこと、4つ目に、より高度な専門的支援を必要とする人が増加している反面、支援技術が未確立であったり、支援者の技術にばらつきがあること、5つ目に、同性介護の完全実施など施設現場に求められる支援の質量に制度がともなっていないことなどが挙げられました。

 最後に、施設の管理者の心得として、管理者が先頭に立って障害者虐待の根絶を決意し、身体拘束や行動制限の廃止、その最小化に向けて取り組む姿勢を現場職員に示していくことが、非常に大切である、と呼びかけました。また、日々の支援が利用者によい変化と利用者の生活の質の向上に役立っていると職員個々が実感できるか、そして、利用者に向けられるやさしさがそこで働く職員にも同じように向けられているか、ということを常に管理者が意識し、施設全体で共有することが、障害者虐待や人権侵害を生まない施設運営につながる、と締めくくりました。



施設等における障害者虐待防止の取り組み